二度漬け禁止

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2.5次元アイドルが目指すシンクロのその先へ AqoursのMV「DREAMY COLOR」の新しさ

Aqoursの「DREAMY COLOR」のMVを見て「ああ、2.5次元にはまだこういうアプローチがあったんだな」と気付かされていい意味で予想を裏切られました。
この映像をきっかけに今までのAqoursファンはより「ラブライブ!サンシャイン!!」という世界観を楽しめるし、今まで「ラブライブ!サンシャイン!!」に触れたことがない層にも、ぜひこのMVをきっかけに「ラブライブ!サンシャイン!!」に触れてみてほしい、と強く感じています。
今回のMVは10周年をむかえるラブライブの新しい歴史の中でも新しい取り組みであり、「2.5次元」というジャンルを考えてもいろんな気付きがあるなと感じたので、おもしろみを感じたポイントを以下にまとめてみました。







今までのAqoursは「アニメとのシンクロ」を売りにしていた

Aqoursといえば、「アニメとのシンクロ」が謳い文句です。
NHKで放送されたドキュメンタリーでも強調されていたとおり、AqoursのPR戦略において重要なキャッチコピーにしていたように思います。

(シンクロパフォーマンスについて語るAqoursの振り付け・ダンス指導を担当する石川ゆみ先生のインタビューシーンにて)
「指先から腕や脚どっちあがってるか前出てるか完璧に見ます。指も1本か2本かそういうところまでそろえてます。」
(インタビュイー)「そこにこだわる理由は?」
「アニメが大事だから。アニメ第一。」


____「シブヤノオトPresents Aqours東京ドームへの道 〜想いよひとつになれ〜」より


アニメの声優をつとめるメンバーがアニメーションとシンクロして実際に歌って踊ることで、そこにキャラクターが存在しているかのような感動を与える。観客としてそのパフォーマンスを目撃することで、自身もラブライブという物語の中に組み込まれたような気持ちになる。これが従来の2.5次元アイドルとしてのAqoursの強みでした。

アニメーションとの動きをそろえるシンクロパフォーマンス








アニメに区切りがついた今「物語」を作るのはメンバー自身

「ラブライブ!サンシャイン!!」のTV版&劇場版が終了し、それらの楽曲を再現するナンバリングライブも2019年に終わりを迎えたことで、2020年からはAqoursとしての新しい独立したパフォーマンスに軸足が置かれるようになりました。
事実、2020年に開催予定だった「ラブライブ! サンシャイン!! Aqours 6th LoveLive! DOME TOUR 2020」ではアニメーションなしのシングル曲「Fantastic Departure!」をひっさげてツアーを回る予定でした。ツアーは中止されたものの、その後配信ライブでは「Fantastic Departure!」とそのカップリング曲である「Aqours Pirates Desire」では、今までのAqoursのイメージ(かわいい、愛らしい、清楚)を塗り替える「クール、かっこいい、挑発的」なイメージにドキッとしたファンも多かったのではないでしょうか。曲調も海をイメージとしたEDM要素が豊富に盛り込まれており、新しいAqoursの到来を感じさせるものでした。
声優アイドルユニットの中でも、パフォーマンス力の高さを売りにするAqoursだからこそ、アニメ準拠のその先の物語や感動をグループ自身が紡いでいくことを期待されている結果だと思います。







MV「DREAMY COLOR」の新しさ

昨年から今年にかけてコロナ禍によりほぼ有観客のライブができず悔しい思いをしたファンとメンバーでしたが、ここにきて投下されたAqours初の実写MV「DREAMY COLOR」はそんなファンの心を奮い立たせてくれるに十分な映像でした。


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1. 模倣しなくても伝わる情景とコンテクスト

今回の新MVは「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台となる静岡県・沼津で撮影されています。
主人公たちが通う学校のモデルとなった沼津市立長井崎中学校や、松浦果南や小原鞠莉が暮らす淡島、海の透明度が高く絶景ビーチとしても人気のらららサンビーチで、メンバーが歌ったり踊ったり。キャラクターにゆかりのある土地や学校の建物や背景をうまく活用し、今までAqoursを観てきたファンには「これはあの時の!」とアニメのシーンを彷彿とさせる仕組みになっています。アニメーションにあわせた動きをしなくても、キャストが沼津のその場所にいるだけで、文脈が伝わるわけです。歌唱もAqours加入順になっていたり、「何も知らなくてもきれいな風景で楽しめるMVだけど、わかる人にはよりわかる」内容になっています。

学校の図書室で歌うメンバー。演じるキャラクターが本好きであり、図書室でやりとりするシーンが多い

2. 踊るメンバーありきで作られた新衣装

個人的には今回これがとても嬉しかった変化でした。メンバーが踊った時に映えるように、白いワンピースにひらっとキレイに舞うように作られたフレアのかわいいスリーブがついていたり、アニメの塗りを意識しない沼津の海を彷彿とさせるグラデーションカラーになっていたりと、「パフォーマンスしやすいか、した時に映えるか」を念頭に置いて作られた衣装のように見えます。

同じ青を基調とした衣装でも色合いや服の形が大きく異なる(前者は従来衣装、後者は今回の新衣装)

アニメ準拠だと、絵としてのおもしろさやアニメーターさんの感性を優先する形になるので、衣装におこすと、どうしても動きにくかったり、野暮ったく見えてしまうものもあったんですよね。
私としては、あれだけ踊るAqoursなので、もっとライブを意識して踊った時に服が映えるようにしたいとか、本人たちの体型を活かしてこう見せたい、とかがもっと出てきてもよいのではないかなと思います。

また、映像中でメンバーが着用する衣装も、既存ブランドをリメイクしたりしているようで、キャストに似合っていて素敵ですね。



3. アニメーションらしい表現をCGで再現

曲の最後のライブシーンも、ラブライブらしいアニメーション特有のライブシーンをテクノロジーを使ってうまく再現しているなと感じました。ぐるっと囲むような視点は、キヤノンのボリュメトリックビデオスタジオで撮影されており、3D空間全体をデータ化する特殊な技術が使われているとのこと。また、ゲーム制作などにも使われるUE4を駆使してCG制作しているそうです。
global.canon


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(PVを制作した東市篤憲監督作品、残念ながら三浦春馬の遺作となってしまったMV「Night Diver」も個人的には非常に好きでした。演者のパフォーマンスを際立たせるような演出がうまい)







コンテクストの強さはアイドルの物語をより強化していく

アニメとただシンクロするだけではなく、彼女たちがいて沼津という場所があって、そこにいるだけでそれはもうラブライブサンシャインなのだと感じさせてくれるのは、制作側とファンが長年築き上げてきた物語の持つコンテクストの力です。
そういう意味ではAqoursってやっぱりキャラを降ろすための依代であり"巫女"だし、それがやっぱり最高に"アイドル"だなと私は思うんですよね。アイドルってファンと共犯関係になって偶像(idol)を拝む宗教なので。
アイドルとしても非常にユニークですし、これからのAqoursがどんな発展をしていくのか、ますます楽しみです。