二度漬け禁止

主に趣味の話(たぶん8割アイドル)のブログです。

ロッキング・オンが手掛ける音楽アニメプロジェクト「ラプソディ」が絶妙にダサくてつらい

※2023/07/25追記:この記事は1年以上前に書かれたものです。プロジェクトの状況も変わっていると思うので、そのことを念頭において読んでいただければと思います。正直ぼざろが出てきた時「ロキノンがやるべきなのはこっちだったんじゃあ」とは思ったよね…。


掲題のとおりです。
ブログは好きなものについて語ることがほとんどで、好きになれなかったものについては、関係者の耳目に触れるのを回避するために書かないことがほとんどなんですけど、今回に関しては逆に、ちったぁ耳に入れといてくれや頼む、みたいな気持ちもあるのであえて書きます。


「ロッキング・オンが音楽アニメプロジェクトを手掛ける」というリリースを観た時、個人的には楽しみだったんですよね。
原作・制作総指揮「渋谷陽一/ロッキング・オン」。
ロキノン世代かつ現在進行系でラブライブや電音部などの2.5次元の音楽コンテンツにハマっている身としては、「どんなものくるんだろうなー」と期待していました。


rockinon.com


それで、先日リリースされた楽曲MVを観たんですよ。



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90年代のアニメED映像か!?!????


紙芝居みたいな映像の中に、テンポ感なく挿入される微妙なフォントと、一昔前のビーイング系を彷彿とするベタな邦楽ロック。
それらの相乗効果もあって、「絶妙にだせえな」が率直な第一印象でした。


ミュージックビデオと銘打ってるわりには今主流のリリック・ビデオよりだいぶ映像がもたつくんですよ。
2.5次元のコンテンツのリリックビデオや、ニコ動的なアニメーションミュージックビデオを見慣れている若い世代からすると、これかなりキツいんじゃないかな。
キャラの立ち絵だけの素材でも、画面の切り替えやフォントの出し方によっては、もっとテンポ感あってスタイリッシュなものにできるはずなんですよ。



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高校生世代に絶大な支持を集める「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」より「シネマ / Vivid BAD SQUAD × KAITO」。作詞作曲はYOASOBIのAyase。キャラクターの立ち絵と同時に映画の字幕のように出てくる歌詞が印象的。


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キャラクターが曲中でゆるいダンスを踊る「テレキャスタービーボーイ(long ver.) / すりぃ feat.鏡音レン」より。映像制作者のcoalowl氏は個人クリエイターながらポケモンラブライブ楽曲のMVも手掛けている。



こういう音楽×アニメーションの映像がわんさかある時代に、スライドショー的映像を「音楽アニメプロジェクト」の「ミュージックビデオ」と言ってお出しされた衝撃よ。
「いや、きっとロキノン世代向けだから!そもそも若い世代向けじゃないんだよ!」と思うじゃん!?でもきっとロキノン×音楽アニメコンテンツって聞いて響く30代~40代の層って、そもそもニコ動もヒプマイもラブライブもプロセカもそれなりにキャッチアップしてる大人サブカル層だと思うの。あとこれは狙って作った懐かしさじゃない、純粋に金と手間がかかってなくてクオリティーが低いやつだ。


音楽アニメプロジェクトということもあり、声優さんたちが演じるボイスドラマもあがっています。
作中で「一真、やっぱりお前が欲しい!」というBL層を意識したであろう台詞が唐突に挟まれるのですが、渋谷陽一はどんな気持ちで監修したんだこれ。


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びっくりするのは、主人公たちが出会って意気投合するシーンのきっかけとなるのが「レディオヘッドがライブでcreepやらなくなった話」なんですよ。
「落ち込んでるときはレディオヘッドだろ。creep聞いて落ち込むのが俺の鉄板だ」
と自慢げに話すバンドマン。
これ令和の話だよね?????
好きなバンドとしてメンバーが挙げてるのが、メタリカ、グリーン・デイ、オアシス、レディオヘッド……ってそれ20年前のラインナップでは???????

筆者が持つ2003年のレディオヘッドが表紙のロッキング・オン。ちなみにcreepのリリースは1992年です。


制作側としては、往年のロックファンに馴染みのある名前でニヤリとしてほしかったのかもしれませんが、「今のバンドマンが落ち込んだ時に聴く曲絶対それじゃねえだろ」感が強くて、世界観に馴染めません。

キャラ絵からは想像もつかないけど全員40代とかなのかもしれない


これ、制作側はどういう気持で……?と思って渋谷陽一氏のブログを参照しに行く。
ブログを読めば読むほど「なんかズレてんな」という確信が強くなる。


僕の人生、最後の大仕事「ラプソディ」が今日スタートする。来年の夏のライブアニメ公開に向け、1年かけてたくさんのコンテンツを発表していく。まずはこのトレーラーを見て欲しい。本気なのが伝わると思う。 (2022/03/16) 渋谷陽一の「社長はつらいよ」 |音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

これまでの世の中に存在しない形のエンターテイメントを作ろう、という壮大な目標を掲げてスタートしたプロジェクト。実は、もう3年以上かけて作ってきたものだ。それがいよいよ今日、世に出る。
説明すると、もの凄く長くなるし、きっといくら説明しても分かってもらえないと思う。作っている僕たちも、作りながら自分たちが目指しているものが何なのか、学習しつつブラッシュアップを続いている。


いよいよ「ラプソディ」の楽曲の第一弾が発表された。自信作なので是非聞いて欲しい。当然のこと曲が命のプロジェクトだ。アレンジとメロディーをアメリカで作り、歌詞を日本で作った。全曲このスキームで闘う。 (2022/03/23) 渋谷陽一の「社長はつらいよ」 |音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

「ラプソディ」に対する皆さんの反応を見ていると、渋谷陽一の気合いは分かるけど何をやりたいのか良く分からないという感じの印象のようだ。当然だと思う。
大げさな言い方すると、これまでに市場になかった種類のエンターテイメントを作ろうという野望を持って進んでいるので、実際のコンテンツがある程度出て来ないと分からないと思う。

ただプロジェクトの中心に音楽があるのは間違いない

だから曲で落第点を出してしまうと、もうそれで終わりなので頑張った。いわゆるアニソンにはしたくなかったし、音楽ファンにしか理解されないものでも駄目だと考えた。これから来年のライブ・アニメ公開までに20曲近く発表していくが、どの曲も曲だけで共感を得られるものを目指した。
メロディーとアレンジはロスのクリエイター・チームに作ってもらい、歌詞はlukiに書いてもらった。全曲、この形で行く。期待通りの仕事してくれて、とても手応えのある曲が出来上がった。


今日、「ラプソディ」のボイス・ドラマ第一弾がアップされました。少しずつ、このプロジェクトの形が見えて来ます。ボイス・ドラマが何か分からない方も多いでしょうが、是非聞いて貰いたいです。 (2022/03/30) 渋谷陽一の「社長はつらいよ」 |音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

最終的にライブ・アニメという劇場アニメに近い形に収束するのですが、それまでは物語はボイス・ドラマによって展開されます。
これがMVと交互に、毎週アップされていきます。


なんかすごく自信満々なのは伝わってくる!
自分が学生時代に愛読した音楽雑誌に3年以上かけてこれをお出しされた気持ちよ。
海外で音源作る前に、その何分の一かの予算まず映像制作に割いたらいいのに。優先順位バグっとるやん。


声優陣を使った音楽アニメというレッドオーシャンに首を突っ込んでおきながら、「世の中に存在しない形のエンターテイメント」とはなんぞや、というのもあるし、「いわゆるアニソンにはしたくなかった」「音楽ファン」などやたらくくりが雑で主語の大きい言葉遣いも気になる。渋谷陽一にとっての音楽ってアニソンは含まれないのかい。
よい音楽を作れば売れるわけではないこと、いろんなアーティストを取り扱ってきたあなた達が最もわかっているんじゃないのか。
何より一番気になったのが、音楽アニメプロジェクトにおける音楽と映像やストーリーの相乗効果の重要性について、運営側はまるで目がいってなさそうだな、ということだ。

実はめちゃくちゃ難しい音楽アニメプロジェクト


15年間で声優人口は約3倍!アニメ市場の10年連続成長を支える5つの注目分野|@DIME アットダイム


アニメ市場の中で音楽・ライブが占める売上規模は必ずしも高くない。ただ、声優陣を主体としたライブ展開やアニソンフェス、舞台化など、ビジネスの幅を広げる影響力は大きい。コロナ禍で凹んでしまった部分もあるが、リアルタイムなストリーミング配信などコロナ禍で新たに生まれた楽しみ方も普及しつつあり、今後も運営側にとって重要なマネタイズ源のひとつになるだろう。ロッキング・オンもこの市場を見込んで、畑ではない本プロジェクトを立ち上げたのだろうし。


右肩上がりの市場にあやかろうと、音楽アニメプロジェクトは非常に多く生まれている。しかし、中には一定のクオリティーに達しないせいで、ネット上でネタにされてしまったり、ファンから不評を買ってしまうものも少なくない。


togetter.com

バンドアニメ「DYNAMIC CHORD」。極端に動かないキャラクターや意味不明な演出など、アニメのクオリティーが低すぎて放送当時別の意味で話題になった。ゲーム開発元が提供する公式MVはわりと普通にバンドのMVぽかったりする。映像化を待ち望んでいたファンからすると悔しいだろうなあ……。





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ブシロードが展開する「BanG Dream!プロジェクト」の男性版として始まった「from ARGONAVIS」よりGYROAXIA「火花散ル」のMV。映像のクオリティーについてファンからの不満コメントが多い。

曲もキャラクターも本当に素晴らしい作品なのに、正直このクオリティはとてもショックです。既存のファンにも初めて見る方にも、アルゴナビスという作品の良さが何も伝わらないMVだと思いました。

見る前「那由多くん可愛いやばい」

見た後「予算足りなかったんかな」


音楽にあわせて違和感なくアニメーションを作るには、大きな作画コストがかかる。予算も技術も必要だろう。
ただ、その音楽とアニメーションがバッチリハマったときには、見る側に大きな感動を与える。




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アニメーションでのバンド演奏といえばこのシーンを思い浮かべる人も多いのでは。2006年の作品なので、さすがに古く感じるけれど、今見てもやっぱりかっこいい。京都アニメーションの映像力を感じるアニメ史に残るライブシーン。



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ジャズバンドをやる高校生たちの青春を描いた「坂道のアポロン」の名シーン。思わず見入ってしまう文化祭のバンド演奏シーンのおかげで、聴衆の学生たちが集まりだす描写が説得力を持つ。



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アイドルアニメの代表格であるラブライブでは、楽器演奏こそはないものの、キャラクターの細やかな表情や振り付けは「確かにこんなアイドルを実際にステージで観たらファンになっちゃうだろうな」と思わせてくれる。

そんな装備で大丈夫か

今後予想される「ラプソディ」の展開として

  • ロキノン系アーティストによる楽曲提供&演奏
  • 声優陣によるリアルライブ開催&ロッキング・オンが主催するフェスへの出演

などが想定されるわけですが、現時点で公開されているものをみて、正直どこまで期待を上回ってくれるのかというと、かなり怪しいな、と思うわけです。
たぶん若者世代向けでもないし、ロキノン世代のコアなサブカルおじさんおばさんにも刺さらないと思う。じゃあこのコンテンツにハマれるの誰やねんと。
最初は「制作総指揮っていっても、渋谷陽一/ロッキング・オンの名義貸しで実際ほぼ何もしてないのでは」と思ったのですが、渋谷氏のブログ見るとガッツリ関わってるみたいなんですよね。逆に名義貸しであってくれ。
だって、ロッキング・オンって、一時代の音楽業界をリードした日本を代表する音楽出版社だったはずなんです。平成においては音楽好きは絶対一度は買ったことある雑誌じゃん。「CUT」「H」「BRIDGE」などのポップ・カルチャーを扱う雑誌も擁しています。
それで満を持してお出しされた音楽アニメプロジェクト、絶対格好良くあってくれよ。


現在のプロダクトを見るに、運営側にこの手のコンテンツに明るくて質を担保してみてくれる勘所のある人がいないヤバさを感じているのだけど大丈夫なのだろうか。
穿った見方をすれば、御年70歳の渋谷陽一氏にメディアミックスプロジェクトの制作総指揮はかなり難しいだろうな、と思うわけです。せめて、企画協力会社がうまくハンドリングしてくれればな、と思うけど。渋谷氏の発言をみると「歪な車輪の再発明」になりそうな気がしていて、怖いんですよね。本来IPコンテンツを専門に扱っている人たちではないし、まあそりゃそうだよな、とも思う。


「2.5次元とか声優に歌わせるのが流行ってるみたいだからロキノン音楽でやったら売れんじゃね?」っていう、安直なものにはならないでほしいな、とロキノン世代としては切に願うばかりです。今後めちゃくちゃいいプロジェクトになって手のひらクルーさせてくれ。


rhapsodyrecords.jp